リーン原則をデジタル変革に適用するには

By CI&T Team

リーン原則をデジタル変革に適用するには
Posted on 8月 6, 2020

 

デジタルはあらゆる場所で活用され、様々な経済分野に変革をもたらしています。日々、テクノロジーの普及が進むにつれ、限られたリソースで消費者のニーズに沿った革新的な製品やサービスを早く生み出すことができる、新しいビジネスが生まれているのです。しかし、多くの大企業は、スタートアップよりもはるかに多くのリソースを持っているにも関わらず、迅速な生産プロセスではなく、可視性の創出とリスクの回避を目的とした昔ながらの業務モデルに従っています。そのような企業が市場での競争力を維持するためには、まず業務プロセスの変革が必要です。


 

今、アイデアやコンセプトが実際の製品に反映され、消費者の手に渡るまでの一連の流れにおいて、テクノロジーが必要とされているのです。


 

時代を生き抜くために必要な変革を起こそうと、これまでにも多くの企業が試行錯誤を重ねてきました。例えば、年々市場で力をつけているリーン・スタートアップ企業の動きを見て、その手法を取り入れた企業もあります。エリック・リース氏の著書『リーン・スタートアップ』(2011年)では、短いサイクルで仮説検証を行うことで、必要な投資を最小限に抑え、顧客への価値提供をスピードアップさせることを目的とする新しいデジタルビジネスの運用モデル、MVP(Minimum Viable Product)が注目されました。また同書では、リース氏が「顧客開発サイクル」と呼ぶ製品開発サイクルに焦点を当てています。そしてその背景にあるのが、リーンの方法論なのです。


 

リーンには、製品(あるいは顧客)の開発サイクル最適化を達成するための強力な手法がありますが、それだけではありません。リーンは、広範囲に適用可能で、1つのプロジェクトだけでなく、企業全体をも大きく変革する能力を持つ経営哲学なのです。


 

著書『リーン・スタートアップ』でのリース氏の解説に、製品の側面だけを優先し、概念を単純化しすぎてしまっている部分が見られました。この解説は、中小企業には素晴らしいソリューションをもたらしますが、大規模なビジネス、法務、マーケティング、ITなど、あらゆる分野で効果的な変革を必要とする大企業に満足のいく結果をもたらすには十分ではありません。『リーン・スタートアップ』を参考に文化的な変革を行おうとすると、リーンの原則とは真逆の、組織のサイロ化に陥る可能性があります。このように誤解を生む見解もあるので、事前にしっかりと議論し、説明することが重要です。

 

 

「リーン」の定義

また、「リーン」の定義も、よく誤解される要素の1つです。リーンとは、単にコストを削減し、オーバーヘッドを減らすことで会社をリーン(直訳すると「痩せ型、引き締まった」)にするための方法論ではありません。この誤解の理由は、ジェームズ・P・ウォマック氏、ダニエル・T・ジョーンズ氏、ダニエル・ルース氏共著の『The Machine that Changed the World』(1990年)で生まれた「リーン生産」という言葉にあります。この言葉は、トヨタの生産システム(TPS)を定義するのに使用されました。本書では、20世紀初頭に大量生産方式が誕生して以来の産業界最大の革命としてリーンを紹介しています。そして、無駄を減らすことの重要性を強調し、組み立てラインを改善するために日系企業が実践した方法について説明しています。


 

しかし、これはリーン原則の一要素に過ぎません。リーン哲学は、顧客にとって何が価値あるものなのかを見極め、それを適切なタイミングで、一貫して、可能な限り迅速に提供するにはどうしたら良いか、また、全体としてのバリューストリームを最適化することを軸としています。これは企業の生産部門だけでなく、全ての部門での継続的な改善を可能にします。著書『The Machine that Changed the World』には、リーン原則の全貌が記載されていますが、書籍内で生まれた用語「リーン」については、著者達が意味するものでは無く、単なるコスト削減の手法として認識されがちです。

 

 

リーンは製造業のみのためにあるものではない

リーンに関連するもう一つのよくある誤解は、製造業のみを目的としたものだと思われがちなことです。多くの企業が、リーンは生産ラインを使用する産業にしか適用できないと考えているため、彼らのビジネスモデルの変革を促進するためのソリューションとしてリーンが挙がらないのです。実際には、リーンはあらゆる業種の企業において、業績、顧客満足度、業務スピードを向上させる可能性を持っています。ただ、用語の起源がトヨタの生産ラインであるため、説明の際に製造業を例として挙げることが多い事は事実です。そのため、読者がリーンの意味をすぐに理解するのは困難であるとされてきましたが、嬉しいことに、最近では理解をしている人が増えてきています。CI&Tとしても、この進歩に貢献できることを誇りに思っています。

 

 

リーンとは、特定の分野を最適化することではない

「リーン」という言葉は、リーン・ユーザー・エクスペリエンス(リーンUX)、リーンIT、リーンソフトウェア開発、リーンシックスシグマなど、特定の分野にリーン原則の一部を適用し、リーン・スタートアップ方法論の中で進化し続けてきました。


 

リーンUXでは、短いサイクルで仮説を立て、実践することで、ユーザー体験を迅速に作成します。同じロジックに沿って、リーンソフトウェア開発では、限られた納期でソフトウェア開発の無駄を排除する提案を行います。リーンITは、企業のIT領域に関する業務やサービスを改善し、コストを削減します。 そして、リーンシックスシグマは、プロセスの標準化とバグの根本的な原因を特定・排除することにより、パフォーマンスを最適化するために、シックスシグマの統計的手法とリーンの手法を組み合わせたものです。


 

これらはすべて多くの企業に重要な進歩をもたらしましたが、リーンの価値創造に関して、間違った認識を与えてしまうこともあります。これに対し、トヨタ生産方式では、情報共有が部署やチーム間でうまくされないような伝統的な運営モデル(サイロ)ではなく、全体を価値創造サイクルとして理解することを推奨しています。


 

リーンは単なる手法ではなく、新しい市場のための戦略である

リーンは「やり方」を挙げる手法のことではなく、価値創造の流れを考える新しい方法として、ビジネスの目標設定および戦略をマッピングすることから、リーダーが取るべき行動、チームがどのように顧客と関わるか、アフターセールスのプロセスまでの一連の流れに関わります。


 

PDCAサイクル(Plan, Do, Check, Act)、社員を大切にするマインドセット、そして問題解決のために積極的にチームを率いるリーダーシップモデルなど、リーン原則とツールによってチームの習慣を変え、継続的に行動を促すことができます。企業がデジタル変革を行い、目標に向かって進んでいく上で最も重要で大変なステップは、企業の文化を変えることなのです。


 

リーンの力と実現方法

1980年代、リーンは製造業の生産性を大きく向上させ、業界を驚かせました。今日では、デジタルの力と相まって、より効率的な方法で価値を生み出すことで、多くの市場に影響を与えることができるようになりました。今、ほとんどの企業が求めているのは、顧客が主導権を握る、変化の速いデジタル環境で成功するため、どのように変革するかということです。企業の根幹である、習慣、文化、リーダーシップを変えることが必要であり、これらの達成にリーン原則は必須です。


 

では、どのように変革を起こせばいいのでしょうか。CI&Tでは、リーンとは「Learn by doing(やりながら学ぶこと)」であると認識しています。もちろん、すべてのビジネスモデルにフィットする手法はありません。それぞれの組織が独自の道を切り開く必要があります。しかし、私たちのリーンの歴史には、手本を見せながら教えてくれる、そして新しい視点で新しい考え方を導き出してくれる「先生」の存在がありました。


 

CI&Tのデジタル変革の基礎となるリーンを発見するまでに、長い道のりがありました。私たちはメンター(相談者)を招き、原則を学び、10年もの歳月をかけて独自の戦略を練り上げ、CI&Tのデジタル変革モデルであるリーンデジタル変革の原点となるプロセスを強化してきました。今日では、ソフトウェア開発にとどまらず、デジタル変革やバリューストリーム全体に関わるサービスを提供しています。私たちは消費者の手に製品を届けることから学び始め、今では消費者のニーズを満たす方法について戦略設定も行うようになりました。顧客にとっての価値を見極め、継続的な改善を求めていく力を身につけたのです。


 

継続的な学習と成長を経験してきたCI&Tのリーダー達は、今日では、自分のチームを指導し、新たなリーンリーダーを育成することができるだけでなく、異業種のリーダーや他の企業のチームと一緒に変革を推進することができる重要な存在となっています。その結果、CI&Tは毎年成長を続け、チームや顧客の満足度を高めることができるようになりました。しかし、それ以上にやりがいを感じるのは、他企業のリーンデジタル変革を支援することで、市場の、そして長期的には社会の価値創造の在り方を変えていると実感することです。


 

1980年代に製造業にリーンが起こした時のインパクトを思い返してみると、もう後戻りはできません。日々新しい基準が確立されていく中で流れに取り残されないようにするには、常にアップデートを続けなければならないのです。