アドホクラシー: 企業のスピードを高めるマネジメントモデル

アドホクラシー: 企業のスピードを高めるマネジメントモデル

CI&T
06/24/2020
アドホクラシー: 企業のスピードを高めるマネジメントモデル

企業の成長を妨げる主な原因は、階層的な権力構造と官僚的なプロセスにあると言えます。権限がサイロ状に分散しているため、各部署がバラバラに活動し、それぞれが別の目的や目標に取り組むので、情報が分散します。これがイノベーションに対する障壁となり、結果として顧客の価値創造をも阻害してしまうのです。

 

この説はかなり有効で、ある企業でオペレーション、マーケティング、人事の代表者に会議をしてもらったところ、全員が「同じ会社で仕事をしているとは思えない!」と感じるほど、考えや方向性に食い違いがあったそうです。それぞれが他部署と必要最低限の関わりしか持っておらず、目指す方向もバラバラでした。

 

CI&Tでは、常にリーダーシップ、マネジメント、意見交換、ワークプロセスをアップデートしてきましたが、数年前までは、上記の例と変わらない状況にありました。当時、私たちは自社のデジタル変革を加速させようと奮闘しており、アジャイルチーム(消費者のニーズに焦点を当てたバリューフローに特化した、自律的で多機能なチーム)の構築には成功しましたが、リーダーが、チームが生み出す成果とイノベーションスピードについていけなかったのです。 

 

そして分析の結果、まずリーダーがそれまで築いてきた指揮統制管理モデルから完全に離れられていないことが問題だと分かりました。指揮を取って管理を行えば、簡単にチームを統括できるので一見便利なのですが、アジャイルにおいては、部署間での壁が出来てしまい、多分野性、実験の機会、自律性が失われてしまいます。

 

また、構造的な問題もありました。チーム内で、当社が成功を収めたリーンデジタル変革モデルにより設計されたフレームワークによる、新しいデジタルマインドセットを持った経営陣をサポートする準備ができていなかったのです。加えて、各個人の変革、リーダーシップの再構築を促進する必要もありました。そのためには、私たちのオペレーションロジック、組織システムの変更が不可欠でした。

 

従来の組織図では、経営トップは会議や電話、報告など非生産的な管理活動にほとんどの時間を費やしていて、このような過度な階層構造の結果、お客様との接点が減っていました。また、それぞれが部下で構成されたチームを持ち、一人で権限と責任を抱え込んでいる状況でした。経営陣は、このように付加価値のない業務の中で、意思決定の最前線に立たされ、手一杯だったように思います。

 

 また、彼らが一番不満に思っていたのは、自己啓発や、新製品の開発など、昇進に必要な、創造的な仕事に取り組む時間がないということでした。この時当社は間違いなく、それまでに見てきた企業の中にもあったような、不毛な官僚主義に近づいていたのです。

 

  「官僚主義がイノベーションの障壁となるのは、イノベーションには多機能なスキルの水平的な組み合わせが必要だからです。このような経営モデルでは、継続的な流れや革命的な製品が出てくることは期待できません。」

ジュリアン・バーキンショー、ジョナス・リダーストラル

Make Your Company Fit For The Future Fast Forward、 スタンフォード大学2017

  

スピードと柔軟性を妨げるマネジメントモデル

 上記では、階層的な構造を持つ官僚主義について語っていますが、これは私たちにとっても、アジリティとイノベーションのスピードを上げようと奮闘する企業にとっても、障壁となります。また、もう一つ能力を開発する上で好ましくないマネジメントモデルがあります。実力主義です。ここで、この2つの経営モデルを簡単に見てみましょう。

 

官僚主義

これは、古典的な運営方法です。官僚主義は産業時代に発展したもので、標準的なルールと手順、指揮命令系統のモデル、強力なヒエラルキーに基づいています。ここでは、意思決定権は組織図上で最高の位置にある人に属します。

これは多くの企業で自然に構築されがちなモデルであり、当社の場合も同様でした。CI&Tは創業以来、年平均約30%ずつ成長を重ねてきました。最初の10年間は、より多くの従業員雇用に対応するため、新しいガイドライン、より複雑なルール、より強固な構造の作成に注力していました。

しかし、この考えを固めるにつれ、業務の進みが目に見えて遅くなり、人々がリスクを取ったり、迅速に行動したり、創造的に考えたりすることを阻害し始めました。つまり、上記でジュリアン・バーキンショーとジョナス・リダーストラルが言及しているように、このシステムはイノベーションを阻害するのです。官僚主義は、デジタル環境で、消費者にクリエイティブで迅速な対応をしなければならない業務においては、適当ではありません。

しかし、現在の市場においても、官僚主義は完全に悪いというわけではありません。リスクに特化した業務や企業の法的問題についてなど、指示と意思決定の明示を必要とする業務では、非常に有効であり、必要な体制です。

  

メリトクラシー

情報化時代では、誰もがより多くの知識にアクセスできるようになり、スキル開発や価値創造の機会が増えたため、企業でも、官僚主義は実力主義に取って代わられつつあります。徐々に個々の専門知識が重要視されるようになり、質の高い意見は、肩書きよりも重要なものとなってきています。今は、階層的な地位に科学が勝利する時代とも言えます。

例えば、開発やエンジニアリングの専門家がアジャイルチームでデジタル体験を作成するような制作現場では、実力主義がうまく機能します。ここでは、チームリーダー(スクラムマスターなど)は、チームメイトからの意見や協力を得て、最も理にかなった議論に沿って業務を進めます。これはまた、根拠と詳細な分析に基づく必要がある分野にも非常に適しています。

問題は、単なる実力主義では、デジタルが必要とする、迅速なイノベーションを促進すべくテストを行う上で、非常に重要な集団的知性を構築しきれないこと。なぜなら、実力主義は集団ではなく個人のスキルを優先するため、チームメイト間での競争が起き、コラボレーションを阻害してしまうからです。チームの中で一番知能が高い人でも、チーム全体の知能には勝てるというわけではありません。

さらに実力主義は、消費者と直接繋がりニーズに応えていくような、データと直感から成る素早い対応と柔軟性が求められる分野には適しません。 

では、官僚主義と実力主義が新市場のニーズに合わないとしたら、この課題はどのように解決すれば良いのでしょうか。 

 

アドホクラシー:デジタル時代のマネジメントモデル

 「アドホクラシーは、スピード感の無い官僚主義への解毒剤である。」 

ジュリアン・バーキンショー、ジョナス・リダーストラル

Make Your Company Fit For The Future Fast Forward、 スタンフォード大学2017 

 

アドホクラシー(adhocracy)という概念は、1970年にアメリカの未来学者アルヴィン・トフラーとハイジ・トフラーによって考案されたもので、現代において、技術の急速な変化に対応しなければならないチーム組織の形態について説明しています。

アドホクラシーの方法を説明すると、まず数人のグループが集まり、機会創出のためにチームとして一緒にプロジェクトを遂行します。機会の創出は、顧客のニーズや新しい市場を探検することにより可能となります。チームメンバーは、様々な部門、または同じ部門でも異なる役職の人々を集めてください。最も重要なことは、彼らが何らかの形でその仕事に貢献出来ること、そして興味と信念を持っていることです。意思決定権はメンバー全員が持ちますが、チームの最高権威は、最も専門知識を持っている人でなければなりません。

 2018年、私たちはCI&Tでこのマネジメントモデルを試してみたのですが、異なる階級のリーダー層全体がチームとして統合し、協力し合うようになりました。当社では、一顧客に対し3~5人体制で対応に取り組みました。より専門的な視点でプロセスを充実させることに加えて、顧客にはより多くのリーダーに関する情報を提供することで、信頼関係を構築します。それにより、顧客はより多くの専門知識を得ることができ、リーダーはネットワークや仕事の幅を広げることに成功しました。

結果として、この少人数チーム制により、リーダーが受けもつ顧客数は増えましたが、上司への報告や従業員への説明に費やす時間が大幅に少なくなりました。

 

「この世の全てを知ることは不可能であり、一定の分野に特化して研究をしてきた人々に、その分野に関する知識で打ち勝つことは非常に困難です。CI&Tは、集団的知性と人々の能力を全面的に受け入れており、お客様の課題にしっかりと対応することが出来ます。」

マウロ・オリベイラ、CI&T Growth and Innovation代表、書籍『Faster Faster』より

 

アドホクラシーについて

私たちにとってアドホクラシーは、社員が自分の意思で顧客を選ぶことができ、プロジェクトへの情熱がデータよりも価値を持つ場合において成り立ちます。感情や情熱を重んじるという考えは一見危険だと思われがちですが、これは理性を捨てるということではありません。アドホクラシーは決して無秩序ではなく、直感的な意思決定を推奨するものです。つまり、スピードが大きな価値を持つ現代において、データや情報に溺れてスピードを落とすことがあってはいけないということです。 

 

 CI&Tでは社員の可能性と知性を大切にしており、社員の興味や才能、願望や信念に応じて、それに繋がるプロジェクトを選ぶ機会を与えたり、意見を採用したりすることが、最高の結果をもたらすと考えられています。こそして私たちは、この考えは正しかったと確信しています。社員が自主的に仕事や担当プロジェクトを決めると、その後の仕事でも非常に積極的な態度をとることが分かりました。やる気と行動力は、何よりも尊重すべきものなのです。

 

「人々が権力を模索して行われる議論は苦痛でしかありません。私は全員が仕事に感情移入して議論を行うのが好きです。特定の分野やポジションに本当に興味があるからそれを望むのであって、そのポジションでの昇進のため、というのはいけません。」

セザール・ゴン、CI&T CEO、 書籍『Faster Faster』より

 

また私たちは、新しい顧客の参入や目的の変更に伴い、チームのバランスを調整するため、リーダーをその時の課題、顧客、そしてリーダー本人にとって最も意味のあるチームに異動させます。また、チームとリーダー層の実績に合わせて、明確なルールを作り、チーム全体を統括する体制を整えています。ここでは、社内で行われている業務や、各リーダーが行う業務をパフォーマンスベースで丁寧に分析します。そしてこの調整は、下記のアドホクラシーモデルを支える4つの柱で成り立っています。

 

個人開発分析 - リーダーはいつでもフィードバックを要求することができ、異なる役割やチーム間を移動する際に、支援を受けることもできます。

 

2. パフォーマンス分析 - 年間の業績について行われる正式なパフォーマンス分析のことです。

 

 3. ギルド - アジャイル方式より生まれたギルドとは、異なる分野やチームの人々が、共通の関心を持ちながらも、新しい学びを共有し、課題について議論し、知識を向上させるために行う定期的な会議のことです。これらの会議は、分析を深める場であり、質の高い集合的知識を生成することができます。 

 

 4. 機会指向型PDCA - チームにおける基本的なプロジェクト管理手法(Plan-Do-Check-Act)です。これに従って計画を立て、成果を体系的に測定することで、継続的な改善プロセスを維持することができます。

 

しかし、アドホクラシーは、企業のあらゆる分野の問題を解決する魔法のツールではありません。上記で述べたように、どの管理モデルにも適する環境があります。私たちの目標は、新しい管理体制に基づくサイロを作ることではありません。理想は、上記の3つのモデルをうまくミックスすることです。

 

最良の管理システム構築には、状況に応じて管理モデルを組み合わせること

 当社では、それぞれの管理モデルを必要なところで使い、全員が常に有機的に連携出来るような仕事の枠組みを構築しました。ここで優先すべきことは、コンプライアンス領域のような官僚主義的に働くセクション、開発チームのようなより実力主義的なシステムを持つセクション、そして顧客との直接の関係に特化したチームのようなアドホクラシーによって運営されるセクションの間で、良好なコミュニケーションと知識交換を維持することです。

 

 「経営者の時間と場所の使い方を最適化した今、スピードは大きなメリットです。」
セザール・ゴン、CI&T CEO、 書籍『Faster Faster』より

 

 そして私たちは今もこれからも、常に自社にとって、市場にとって、そしてお客様にとって最も価値をもたらす業務形態を模索していきます。

 

また、重要なのは決して経営モデルではなく、結果です。おそらく今後も、私たちは新しいモデルを組み込み、学びを広げていくことでしょう。素早い変化が求められる現代では、消費者の生活や社会に変化をもたらすため、可能な限りの価値を提供することが唯一の選択肢です。これが私たちが目指すべき道なのです。

 

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